●建築素材になる樹を育てるのに、どのくらいかかるのでしょう。
柱にするのでしたら50年くらいから、板にするのでしたら80年とか100年とか、そういう期間で考えています。林業を営んでいく上では、100年の単位で考えることが重要になります。例えば700ヘクタールの森林があれば、毎年7ヘクタールくらいを皆伐(かいばつ)していきます。山がもっている成長量の範囲内で、持続的な皆伐をしているんですね。
自分のところですと300年くらい植林の歴史があります。今切っている木は、うちのおじいさんが植えたものですね。おじいさんの代に植えたものが、今、建築用の素材として使われています。

1905年に植えられたことを示す看板
写真:速水林業
●一時期、枝打ちしてまっすぐ育った樹は不自然だから良くない、こぶのある木のほうが自然だと、もてはやされたりしました。
ものすごく大事なのは、手入れをしないと木はすごく弱いんです。何故、枝打ちをして、細くすーっと真直ぐな樹を育てるかというと、それは全部用途や目的との関係があるんですね。
木材の繊維というのはすーっとタテに走っています。フシやコブのところは、そこが横にまるく途切れています。だから、横から力が加わったらそこでボキッと折れてしまうんです。例えば、建築現場などで間伐(かんばつ)した樹を使って足場を組んだりするんですが、枝打ちしていない樹を使うとフシのところが強度が弱いから本当に折れてしまったりするんですよ。柱にするにはちょっと恐いでしょう?
だから、節がある方が「自然だ」とか「ありのままだ」というその論議と、それを建築素材として「使う」という視点で見た時は、まったく別なんですね。
●森林の手入れとは具体的にはどんなことをするんでしょうか?
最初の仕事としては、林業は樹を切るところから始まると思うんです。最初に立っている樹を切りますね。切ったあとは、地ごしらえと言って、ある程度下草などの片づけや地ならしをします。それから苗を植えます。以前は、自分のところで苗から育てていたんですが、最近は苗屋さんから苗を買うようになりました。苗を植えたら、最初のうちは草に負けてしまいますので、草刈りなどをして育てます。
山の北側の方が成長がいいんです。南側の方が成長が悪いんですね。南の方が日当たりがいいから成長がいいかなと思いがちなんですが、その樹だけでなく、他の植物との関係で決まってきますから、他の植物や樹が勝っちゃうと、樹が大きくならないんで、北向きの方がいいんですね。
●足下にも小さな樹が生えてるみたいですが・・・。
種が落ちて自然に生えてくるものもあります。実生(みしょう)というんですが。でも形状があまりよくないので、苗から育てますね。
枝のところを切るとですね、切ったところから根が出てくるんですよ。
何百年という植林の歴史と言うのは、もともとはスギの枝を地面にさしておいたら根が出て樹になったというものです。これは完全なクローンなので、スッとした形のいい樹から挿し木をすれば、同じようにいい樹が育ちます。ただ、クローンの場合はある時にある病気がはやったらみんなやられてしまう可能性はあるんです。
だから例えば、伊勢神宮の第二宮域林では絶対に実生なんです。絶対に挿し木はしない。何故かと言うと、継続して千年単位でものを考えているから、何かの異変で全滅しないように、被害を最小限まで食い止めるために、遺伝子の多様性を保つためにクローンはつくらないんです。神域の森だから、林業とは違う視点ですが。
日本の文化の根底を支えているのが日本の樹の文化なんです。昔から続く木材の生産の現場に、クローンとか遺伝子とか科学性に裏打ちされた最先端のものがあるんですね。
横濱氏より一言
紀伊半島というのは、古くから植林の歴史があります。何百年もの間、樹を切って植えて切って植えてを繰り返しているんです。ここの環境を破壊しないで、生産をやり続けて、現在もやり続けている。だから、戦後の荒れた山のお話ばっかりがクローズアップされて、日本の山はダメなんだと誤解があるけれど、でも違うよと。どうせ家を建てるんだったら、こういうすばらしいノウハウを持っている人たちが生産した木材を使って、家を一緒に作っていきましょうよ、ということを言いたいんです。あとは課題としてはここから生産したものをどういうふうに供給していくかですね。 |
用語解説:
皆伐(かいばつ)--全部切ってしまうこと
間伐(かんばつ)--光を入れるために一部の木を切ること
除伐(じょばつ)--使い物にならない木を切ること
参考サイト:
世界の丸太輸入量に占める日本の割合(平成10年度版 林業白書)
http://www.minnanomori.com/use/u_info01/u_106.html
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